■LOVEストーリー@イマドキッ
『あの男の誘いに乗っていいかしら……結菜[ゆいな]の場合(2)』
坂宮あけみ
敷地については、いろいろ噂があった。女グセが悪いとか、会社の上司の娘と縁談がすすんでいるだとか、だ。
一回目こそ、結構強引に誘ったが、それ以降敷地は、「君が嫌でなければ……」という前置きをする。二回目に逢った時、敷地はホテルの部屋に入っていった。誘う時とは反対に、いいかという同意は求められなかった。ベッドに横たわると、私の首すじや乳房を指で丁寧になぞり、舐め上げた。そのたびに、体の芯[しん]が熱くなる気がした。貴也とHしている時ももちろん気持ちいい。しかし、それとは全然違う快感が広がってくる。思わずため息のような声を漏らしたが、それでも迷っている。恋人がいるのに……。彼の硬いものが太股[ふともも]に触れる。両足を開くようにあげられて、やっと声がでた。
「ごめんなさい。駄目。入れないで」
どうしたの、という顔をして敷地が私を見た。
「ごめんなさい。私、彼がいるの。やっぱり裏切れないわ」
少し唇をゆがめるように敷地は笑い、
「こうして男の前で素っ裸になっているのになんだよ。今更」
とぶつぶつ言った。分かったよ、入れなきゃいいんだろう、と言って、私を裏返した。お尻の割れ目に自分のものを挟み擦[こす]りつける。微[かす]かに彼のものが、私の足の付け根に触れる。後、少しお尻を上げれば、濡れそぼった穴の中にするりと入ってしまうことだろう。
「入れてください」と涙ながらに頼みたい衝動に駆られる。でも、それはできない。したい気持ちに耐えかねて、私は思わず自分の指を噛んだ。
「ね、何、ぼーっとしているのよ」
と陽奈子が私の肩を叩いた。
「やあねえ。きっと貴也君のことでも考えていたんでしょ」
その時、携帯電話に短い電子音が鳴った。メールの着信があった。見ると貴也だ。
「彼氏からのメールでしょ。早くレスしてあげれば。ねえ、一日に何回メールのやり取りしてんの?」
敷地からメールが来ることはない。アドレスも知らない。でも、着信が鳴るたびに、心の中で敷地からだったら、と思う。敷地を愛しているのか、好きなのか、自分でも分からない。彼の横にいると、誰かにバレたくないという気持ちからビクビクしてしまう。貴也の側[そば]にいる時は、笑ったり、しゃべったりと忙しい。でも、敷地の側にいると、無口になってしまう。黙っているとつまらない女と言われそうで、逢った後はいつも落ち込む。体の中から無数の触覚がでて、敷地の方に延びる。
「結菜、ね、どんな人なの? 彼氏」
陽奈子が好奇心でキラキラした目で見ている。
「とっても明るくって、頼りがいがあって、いい人なんですぅ」
「え、いい人? 恋人をいい人なんて、形容しちゃだめよ。いい人なんて、他人がそうであればいいの。恋なんて本能なんだから、クセがある方がいいのよ」
そういう陽奈子を七海は、先輩少し飲みすぎですよ、とたしなめている。
いい人……そうかもしれない。敷地は私を愛してはいないだろう。敷地はいい人じゃない。そうはっきり分かっているのに、私は敷地に抱かれたいと思う。敷地を思うたびに、下半身がずしんと重くなる。後悔するまで、この想いは枯れたりしないのだろう。私は、消えない想いが溢[あふ]れて陽奈子や七海に気づかれないように、
「そんなことないですよ。彼のこと、大好きだもん」
と明るく言った。そういいながら、私は、自分の言った「彼」がどっちの男のことなのか、自分でも分からなくなった。